◆部位
長襦袢の本衿の上に掛けるものです。
(長襦袢の衿に付けて、きものからチラッと覗かせ、装飾を目的とするもの。)
◆歴史
・平安時代の女房装束の襲(かさね)着によって生まれる重色目(かさねいろめ) の美しさは衿元、袖口、裾に見えており、衿元を美しく見せるという風俗の伝統 は小袖が主体性を持つようになってからも受け継がれています。
・桃山時代などは、男女共に派手目のものが多かった・・らしい。
・江戸時代一般庶民は綿入れや袷(あわせ)の表着に黒繻子(くろしゅす)やビロ ードを掛衿に使用。娘は赤、図柄もの、ひかえめな草花。
半衿の語源・・掛衿の長さが本衿の半分程
半幅を使用のため
掛衿・・長さ2尺5寸、幅4寸で本衿の倍の幅
長着であれ、襦袢であれ本衿の上に掛ける掛衿を半衿と言う。
寛永以後
始まりは定かではないが、もっぱら庶民のもので、結髪の普及発達に伴い、発達したものである。
庶民の生活も落ち着いてくると、衣生活も派手になり、下着に贅をつくす傾向があり、襦袢もその一つで、それに、そぎ衿が掛けられ、いつしかその、そぎ衿が布幅の半分という事から半衿と言われるようになった。
@本衿の汚れを保護する実用目的により、表着に掛衿
A衿を抜いて着る着付けに伴い長襦袢に刺繍などを施した華麗な半衿を装飾的に付ける。当初は無地だった物が、唐草、麻の葉、小紋染、絞り、
文化文政には刺繍が流行。刺繍は昭和初期まで流行が続く。
・明治・大正時代
半衿は装飾美のポイントとして、最も栄え、多くの優品が作られた。
明治30年頃に半衿用の両耳のついた幅の狭い布地ができた。また、半衿専門店や下絵職人も出現。明治末から大正時代に掛けて「絞りの衿」が流行。
半衿を桐の衿箱にしまって楽しみ、沢山あることは女性の誇りでもあった。
・昭和
大東亜戦争が始まり、きものがモンペ姿に変わった頃から、刺繍の半衿や色衿は白衿になった。(物質がないことから贅沢な半衿がなくなった。)
・現在
白衿になって50年以来近く経った今日でも、きものが派手になったことから白い半衿が殆どのようです。
きものから洋服への生活になり、きもの文化の発展が亀の歩みになってしまった要素も大きいと思います。
江戸、明治、大正、昭和初期と流行っていた刺繍半衿は現在は、花嫁の衣装か京の舞妓さん用に使用されることになってしまっている?
白い半衿は清潔感と無難さがあると思いますが、色半衿などもきものの色柄とお顔とのつなぎ色にコーディネイトして、楽しみたいものです。
◆働き
・きもの調和・・・きもの感覚が洋服的感覚なので、白が無難?
きものの色と顔の色と上手く繋ぎ合わせる役目
・衛生管理・・・襟足のところや、髪の毛の汚れが付いても、取り外しが簡単で洗える。
・季節感を出せる・・・きものを基本にそれ以外の帯や小物は一足先の季節を表 す。6月に透けない単衣を着ても、半衿、帯揚げ、長襦袢は絽を使用。9月下旬には、絽は塩瀬に!
◆種類と格
女物・・・花嫁・・冬(春秋含む)・白塩瀬に金銀刺繍入り、有職文様の金銀箔押し
夏・絽縮緬、平絽と金銀刺繍入り
留袖・・冬・白塩瀬羽二重
夏・白平絽、白塩瀬の絽
七五三祝着用・赤縮緬、塩瀬の刺繍入り
よそ行き・・冬・白塩瀬、紋縮緬、大絞縮緬、変り織縮緬、化合繊の白または淡色
夏・塩瀬の絽、平絽、絽縮緬、紗、紋紗、麻、麻の絽の白または淡色
おしゃれ・・色半衿、刺繍、絞り、など
TPO的には
礼装・・改まった感じで白衿が良い。
その他に金銀の刺繍入り、吉祥紋を描いたもの
正装・・淡い色調の上品なもの
カジュアル・・濃い色の無地、小紋柄、絞り、おにしぼ縮緬
男物・・・礼装用・・冬・塩瀬羽二重の白または薄ねず色
夏・平絽の白または薄ねず色
カジュアル・・冬・羽二重の薄ねず色または茶色
◆半衿の季節
1月〜5月:塩瀬羽二重、縮緬、綸子、朱子
6月徐々に
7月〜8月:絽、麻、紗
9月徐々に
10月〜12月:塩瀬羽二重、縮緬、綸子、朱子
半衿も単衣の時期は徐々に季節になじませる意味から季節に先がけたおしゃれを楽しみましょう。
◆生地について
大絞縮緬(おおしぼちりめん):近頃のように衿元をぴったりと合わせる着付けには使用されません。 半衿をたっぷり出した、明治風半衿に向きます。
堅絞縮緬:初夏、絽の半衿になる前、初秋、絽から塩瀬に戻る前に使用。最近は見られない半衿です。
紋縮緬(変り織縮緬):薄手のもので、使い具合は良いが、地紋柄が余り変らないため、用いられなくなった。
ふくれ織:平らでないため、衿元がすっきりしない。
塩瀬羽二重:現代のきものでは一番多く使われる。
昔の人から見たら色気のない半衿かもしれませんが、礼装から普段着まで広く使用されます。
・水洗いすると黄ばむので注意。化合繊が重宝です。
・礼装には新しい塩瀬を使い、順に下ろして使用すると良い。
絽縮緬:初夏と初秋に中年以上の方に
平絽:地風が平らすぎ、ものたりない?今日では裏衿に
綸子:
朱子:
塩瀬絽:時季は絽縮緬の次で広く使用される。
絽の間隔・夏の始めは広く、盛夏は狭い。 立絽もある。
礼装用には不向きです。
麻・麻絽:盛夏用 麻の上布や紗のきもののときに
紗・紋紗:盛夏用 駒絽や紗の染のきものに
色半衿:現代のきものはや帯は豪華で派手めのものが多く、息抜きとしても白半衿が重宝ですが、渋い色柄のきものや、単色のきものなどの普段着用のおしゃれとして全体に溶け込むようなコーディネイトで。色半衿の色と同色の帯締めや帯揚げなどの小物にアクセントをつけるのも良い。
(紺地に白の絣、白地に茶の縞、紫地に白上がり小紋)
刺繍半衿:・刺繍半衿で季節を表す
1月:松竹梅、三番叟
2月:猫柳、梅の花
3月:桜、柳、藤、牡丹
4月:桜、柳、藤、牡丹
5月:材質は立しぼ 1月〜5月の春の衿は百花爛漫(らんまん)
6月:材質は絽縮緬・あやめ、燕と涼やかに
7月:材質は平絽、紗、麻・流水、金魚、花火、鵜飼
8月:材質は平絽、紗、麻・流水、金魚、花火、鵜飼
9月:秋の七草
10月:菊、紅葉、蔦(つた)、南天、雪輪
11月:菊、紅葉、蔦(つた)、南天、雪輪
12月:菊、紅葉、蔦(つた)、南天、雪輪
・刺繍半衿のつけ方は白半衿と同じです。
・長襦袢の着付け時の注意
@衿の抜き方は髪型にもよりますが、詰め過ぎず、ゆったりと抜く。
A衿合わせは深めのVの字にゆったりと。
B衿先は全部広げると刺繍の中心部がきれいに出る。
C衿芯は長めにしておき、伊達締めでおさえられるようにすると襟元の着崩れが無い。
D衿元のふくよかさを出す場合、衿と衿芯の間に真綿を薄く延ばして入れても良い。
・長着の着付けの注意
@刺繍半衿を強調するために、細めのばち衿風にして添わせる。
・コーディネイトポイント
@基本として半衿ときものの柄、両方を生かすように
A半衿ときもの、どちらかの柄を目立たせたり、関連づけたりする方法
Bきもの色だけでなく、帯、帯揚げ、帯締め、長襦袢の色と合わせて見る。
C刺繍半衿だけが目立たないように。
D髪型は衿元との釣り合いをとりますが、あまり大きすぎるのもよくない。
・手入れ
@水やお湯で洗うと色がにじみ出たり、縮んだりしますので、専門家 (クリーニング屋さん、洗い張り屋さん)をお勧めです。
Aしまう時は、中表にして、小引出しや衿箱にいれましょう。
私は葛籠(つづら:竹で編んで鷲を張り、漆を塗った物)に入れています。
正絹:目のつんだ、厚地で重目のものが上等とされますが、洗濯をするとだんだん黄ばんで、絹特有のはんなりした風合いがなくなり、ゴワゴワしてきます。
化繊:簡単に洗え、汚れも付きにくいです。普段用に最適です。
◆買い方
いつでも、ソフトな半衿を使いたいものです。高級な物でなくとも、たびたび変える事をお勧めします。通のかたになると、「半衿は一回きり!」と言う方もいらっしゃるとか??
◆手入れ
昔から、半衿と足袋は清潔さが身上とされています。こまめに取り替え、洗いましょう。
・選択方法
@合繊、絹とも、中性洗剤のぬるま湯に少しの間つけ、汚れの部分をブラシ洗いにします。余り汚れていない物は振り洗いで。※もみ洗いは小じわになり、アイロンでも取れなくなります。
A洗剤が残っていると黄ばみます。
B絞る時は端からくるくると巻いて水を切ります。
C風通しの良いところで、影干しにし、両端をピンと張るか、板の上にのせて干します。
・しまい方
アイロンをかけ、二つ折りにして、時季外のものは、ビニールに包み、防虫剤を入れて箱に入れておきましょう。
◆半衿のつけ方
きもの姿の中でも、半衿はとても重要な役割を持っています。
顔のすぐ下ですので、人と向き合った時に、お相手の目線も衿元に行きます。
きものの衿の間に見える半衿の出し具合や厚みで美しい印象を与えることもできるでしょう。
@衿芯は正バイアスの芯にすると後ろ衿のカーブが無理なく美しく出ます。
衿芯の役目は衿をしっかりさせる、色移りを避けるなどの働きがあります。
A長襦袢の表側の衿付け線から5mmずらして、まずはじめに一目落しで芯を付けます。
B長襦袢の表側の衿付け線に添って半衿を付けます。※Aで衿芯を5mmずらして付けているので、針の通りが良くて楽です。
棒衿・ばち衿
C内側は芯をきっちりくるむように折り、裏に大針、表に小針の一目落しで縫う。
D内側は背中心より3cm位衿先に向かって左右細かく縫う。
広衿
EBまで同じです。
芯の端に添って半衿を折り、半衿、芯、本衿と3つ一緒に一目落しで縫う。
◆応用
@旅にお出かけの時は、半衿を二枚重ねて付けておき、汚れたら上の一枚を取れるようにしておく。
A胸幅のきつい襦袢の時は衿付けよりも衿の方へずらして付けると良い。
B胸元をふっくらとさせたい場合は、半衿と芯の間に衿綿、袘綿(ふきわた・青梅線にある)を薄くはさむと良い。
◆半衿の老舗
東京:「ゑり円」・・・谷崎潤一郎の小説「細雪」に登場
東京都銀座4−6−15 03−3561−5290
京都:「ゑり善」「ゑり万」・・・着倒れの町京都!!
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